【連載】「丁度いい暮らしと住まいのつくり方」7

『丁度いい暮らしと住まいのつくり方』
第7回「内向的な空間をつくる」

これから家づくりをする方や家づくりを考え始めようとしている方に向けて、ブログの中で不定期(月に1回程度)の連載をしています。個別のテーマはその都度変わりますが、連載のタイトルは『丁度いい暮らしと住まいのつくり方』として、これまでの設計事例の中からテーマに合わせて新築、リノベーションに関わらず事例をご紹介しながら、「丁度いい」とはどのようなことなのかを探っていきたいと思います。丁度いいの確信丁度いい暮らしを生み出すための設計の工夫や考えたこと、建て主の要望にどのように応えてきたのか、その他、個人的な想いなども書いていきたいと思っています。

この連載も第7回目になりました。今回は「内向的な空間」について書いてみたいと思います。私自身が自分の設計が内向的だと感じていることもあり、今までの設計事例を振り返ることで、自分の設計を掘り下げながら、私が考えていることを記してみたいと思います。前回(第6回)は建築の第一印象について書きましたので合わせてお読み頂けると面白いかもしれません。

「内向的な空間」というのは文字通り、ウチに向かっている空間ということです。ウチに向かうとは、環境面で考えた時には外と内の対比によって現れる内部空間のことであり、人に注目すると心のウチ側という意味でもあります。


建築を計画する時には必ず周辺環境が存在します。土地に新たに建てる新築住宅でも、既存マンションの一住戸のリノベーションでも必ず周辺の環境があります。その環境を観察することで、これから生まれる建築空間の拠り所が見えてくることがあります。積極的に関わったり、取り込んだりすることもあれば、できるだけ意識しない、関わらないようにすることもあります。いづれの場合も私だけで決めることはなく、クライアントの生活に対する考えを理解して最適解を導きだすようにしています。どのような場合でも意識しているのは、必ずポジティブなつくり方をしたいということです。少し抽象的ですので具体的な事例をご紹介しながら補足していきます。

事例:戸塚の住居

横浜市内に建つ注文住宅です。写真は2階にあるダイニングからリビングを見ています。リビングの先には屋根と壁で覆われたテラスがあります。テラスの外側にどのような環境が広がっているのかは直接は分かりませんが、テラスの壁と屋根には開口(外とつながる穴)があるので光を感じることができます。時間や季節、天候によって光の量や色合いが変わるので、いつ見ても違う表情をしています。この事例は周辺環境に依り、外に対して閉じる必要がありました。閉じてはいるものの、外部と良い関わりを築くことで、ウチ側にある空間がより豊かになるようなつくり方をしたいと思いました。


次は先ほどの写真の反対側から、リビングからダイニングを見ています。ダイニングに設けた窓は南を向いていますが、敢えて細長い窓にしています。南側であれば大きな窓を設けるのが一般的で普通の考え方かもしれませんが、ここでは、そのようにはしませんでした。窓の外にはお隣の家がありますし、窓もついています。お互いに気持ち良く暮らしていくには必ずしも大きな窓は必要ないということです。一般的な常識や普通という言葉に無意識に流されるのではなく、一旦立ち止まって考えることが必要だと思っています。ここでは周辺環境から窓を小さくしていますが、暗くなり過ぎないように注意をして設計しました。建築は色々な要素が複合的に関係しながら形づくられています。設計する時に予め様々なことを想定することで理想とする状況をつくり出すことができると思います。

まずはじめに、環境面で考えた時の内側に向かう建築空間について触れました。次は人の心のウチ側に向かっていくような建築空間について考えてみたいと思います。

事例:小平の住宅

写真は小平市内に建つ注文住宅の玄関です。吹抜けになった玄関ホールに階段が隣接しています。玄関の上部には窓を設けることで光による明るさが降ってきます。玄関に入った時には頭上に光を感じることになります。朝は仕事や学校に出かけるため、慌ただしく出ていき、夜は一日の終わりを感じつつ、ほっとしながら玄関扉を開けて我が家に帰ってくる、玄関は暮らしの中で心のスイッチが切り替わる大切なポイントのように感じています。その大切な場所に、ふとした瞬間に非日常を感じられる仕掛けをひっそりと忍ばせています。

事例:板橋の二世帯住居


先の事例と同じように玄関の上部から光が降ってくるイメージで設計しました。慌ただしい日常の中で感じる、ふとした瞬間の非日常を大切にしたいと考えています。

何となく崇高に感じられたり、神聖な雰囲気があると、何かがありそうな特別な印象を受けることがあります。あくまでも日常生活を営む住まいではありますが、日常の中で非日常を感じるひと時があることで、大切でかけがえのないものに変わっていくのではないかと思っています。

次は環境面から、外に対するウチの空間をつくることで、その空間が人の心のウチ側に作用することを意識した事例です。

事例:鶴川の連窓住宅

川崎市内に建つ注文住宅の2階の写真です。周辺は比較的同じサイズの敷地が並んでいて、同じような大きさの住宅が建ち並んでいます。隣家の視線を遮り、自分たちだけの景色と光を手に入れるために目線には壁を立ち上げ、高窓が連なるように設計しました。高窓にしたことで南側に建つお隣の窓は全く見えず、視線を感じることもありません。昼間は光をふんだんに感じ、夜にはこの窓から星空を眺めることができます。周辺環境を観察することから導き出された内部空間を通して、人の心のウチ側に向かっていくような設えになりました。

ここまで注文住宅の事例を見てきました。
ここからは続けてリノベーションの事例をご紹介します。

事例:囲みの層

事例:光の居処

事例:鎌倉の改修住居

事例:品朴の間

リノベーションの場合は周辺環境は既に決まってしまっていることがほとんどです。そこにある環境をあるものとして受け入れて、観察して、関係をつくりだすようにしています。外と内の関係に直接的に関わってくることのひとつに窓があります。窓は周辺環境と同様に触れることが出来ない部分です。私の場合、窓の内側に障子を設けて外との関係を自由に調整できるようにすることが多いです。外を見たくない時(見せたくない時)は障子を閉めて室内空間(ウチ側の空間)を完結できるようにしています。外の情景が障子に映し出されたり、障子にあたった光が淡く白い発光面になるので、距離の感覚が曖昧になり、独特の空気感を生み出すことが人の心に作用するように感じています。

ひとつの例として障子という素材を取り上げましたが、他にも壁の配置の仕方や室と室の繋がりによっても内向的な空間をつくることができます。

ここまで内向的な空間について実際の事例を振り返りながら、どのようなことを考えて設計をしているのかを記してみました。

私が内向的な空間をつくるには理由があります。それはこんな想いからです。

家にいる時間が豊かに感じられて、暮らしに彩りを与えるような住まいにしたいという考えが根底にあります。豊かさとは、モノよりも人の心や感情に大きく関わっていると思います。住まいという暮らしの器が人に作用することで、何気ない日常の情景が美しく感じられたり、ふとした光景に感動したり、満たされているという充足感を味わえるのではないでしょうか。豊かさをつくるには、住まいのウチ側に向かっていくことと、人の心のウチ側に向かっていくことの両方が欠かせないと思います。こんな想いで家づくりをした結果が内向的な空間につながっているのではないかと考えています。

私の理想の家族像や理想の家庭のイメージを反映しているということもあるのかもしれませんが、私に設計のご依頼をしてくださるクライアントの皆さんは、その理想と違和感のない素敵なご家族がほとんどなので、無理矢理おしつけるようなこともなく、自然と導かれるように家づくりをしてきました。

ここに記した事はクライアントから直接リクエストされたことだけではありませんが、クライアントの要望をヒントにしながら、対話を通して形づくられています。プレゼンテーションや家づくりの過程ではこと細かに解説することをしていないかもしれませんが、クライアントの想いとは大きく外れていないと思っています。

先に書いたことからもわかりますが、家づくりをする上で、建築家とクライントの相性はとても大切です。両者が同じ方向を目指していないと丁度いい住まいをつくることはできません。私自身もクライアントとの相性は、最も重視していることのひとつです。皆さんも是非、相性のよい建築家と出会い、丁度いい暮らしと住まいを手にしてください。

今回取り上げた事例は内向的な空間のつくり方のごく一部です。クライアントの数だけ住まいのバリエーションがありますし、その数だけ内向的な空間のつくり方があると思います。幾つもの可能性の中から「丁度いい」を見つけ出すのは大変ではありますが、ご自分にとっての「内向的な空間」を想像して頂き、ご自身にとっての「丁度いい」方法を見つけ出して頂ければ幸いです。

今までの連載は  コラムのページ  にまとまっています。
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