【連載】「丁度いい暮らしと住まいのつくり方」6

『丁度いい暮らしと住まいのつくり方』
第6回「第一印象の良い住まい」

これから家づくりをする方や家づくりを考え始めようとしている方に向けて、ブログの中で不定期(月に1回程度)の連載をしています。個別のテーマはその都度変わりますが、連載のタイトルは『丁度いい暮らしと住まいのつくり方』として、これまでの設計事例の中からテーマに合わせて新築、リノベーションに関わらず事例をご紹介しながら、「丁度いい」とはどのようなことなのかを探っていきたいと思います。丁度いい暮らしを生み出すための設計の工夫や考えたこと、建て主の要望にどのように応えてきたのか、その他、個人的な想いなども書いていきたいと思っています。是非お付き合いください。

連載の第6回目です。今回は住まいの「第一印象」について私が日頃考えて、実践していることを中心に事例を用いてご紹介しながら「第一印象の良い住まい」のつくり方を探っていきたいと思います。

第一印象が良いというのは戸建て住宅はもちろん、リノベーションであっても大切なことだと思っています。戸建て住宅は街の中に建っていることが多いため、外からおおよその外観を見ることが出来ます。一部、敷地や周辺住宅の状況により見えにくいことはありますが、むしろそのようなケースにおいても第一印象を良くする方法があると思います。またリノベーションの場合は建物の外観や共用エントランスは手をつけることが出来ませんので玄関の扉を開けた、その瞬間の印象が大切になってくると思います。

では第一印象が良いと、どんないいことがあるのでしょうか。戸建て住宅の場合は周辺の街並みに合っていて違和感がないとか、家の前を通る人が素敵な家を見ることを楽しみにしているとか、社会の一員として少しでも貢献することが出来るでしょう。これはとても大切なことだと思います。一方で社会や他人に対すること以上にクライアント自身に良い効果が表れることがいいことだと思います。注文住宅で住まいをつくる場合にはそれなりに時間が掛かります(リノベーションであっても同様です)。この間、クライアントは建築家と一緒に様々なことを考えながら、少しづつ前に進んでいきます。その結果、自分の目の前にマイホームが出現するのです。この気持ちの高揚と充実した感覚はことばでは言い表せないものではないでしょうか。自分の家を見るたびに、この気持ちが沸き上がってくるのです。リノベーションの場合も同様です。玄関扉を開けるたびに今までの記憶がよみがえり、気持ちが高揚することでしょう(羨ましいです)。付加価値的に訪ねてきた人が玄関を開けた瞬間に「うわぁ~」という歓声をあげてくれることもあるかもしれませんが、あくまでもご本人やご家族のために第一印象の良い住まいを考えています。

それでは、具体的に今までの実例をご覧ください。
最初は戸建て住宅からご紹介していきます。

事例:戸塚の住居

写真は横浜市内に建つ注文住宅です。最寄駅から歩いてくると写真のような姿が見えてきます。道路からは少し高い位置に建っていますが、もともとの土地の形状を活かして建物を配置し、アプローチを考えたためです。窓の数は多くはないので壁の印象が強い外観です。壁は茶色に近いグレーの吹き付け材で仕上げられており、玄関扉や2階の一部に木がアクセントのように用いられています。外観を整える時に大切にしているのは「面の中に間をつくること」です。要素が多すぎると見た目がうるさくなってしまいますので、控えめに、品のある表情となるように心掛けています。もちろん重視しているのは室内空間が充実しているということなので、外観はあくまでも整えるという意識です。

この考え方は旗竿地のような、外観が見えるという点では不利な条件でも同じです。次は旗竿敷地に建っている注文住宅の事例をご紹介します。

事例:小平の住宅

道路とは幅2mほどの長さだけが接している路地状の部分とその奥が広がっているような形の土地を旗竿地と言います。この住宅はそんな旗竿地に計画しました。旗竿地の場合、道路側から建物を見ようとしてもその姿は少ししか見えません。その少しだけ見える状況を活かすような、整っていて美しい顔が見えているような第一印象の住まいをつくりたいと思いました。

この土地の最大の特徴は(道路から見ると)裏手になるお隣の土地に緑地が広がっていたことです。設計のテーマはこの緑地の緑と敷地内に新たに植える緑が一体的につながっていき、その様子を楽しめるというものでした。そんなこともあり、室内に入ると裏の土地の緑を思いっきり感じられるように建物の配置と室内空間の構成を考えました。

建物の外観から受ける第一印象と室内に入った時に感じる第二の印象を同時に考えながらつくるイメージです。第一印象は、先の事例と同様にあくまでも室内空間からつくっていき、その結果として外観が生まれています。その際、外観は第二の印象につながるように、裏の緑地の様子が見えないことを意識しながらアプローチやエントランスをつくり、道路から見える印象が良くなるように建物自体の大きさや窓の配置を整えました。室内空間は1階と2階のそれぞれに大きな窓を設けることで緑を身近に感じつつ、異なる印象を受けるように考えています。

戸建て住宅の外観には窓や玄関などの扉、バルコニーや屋根、付属物などが表れます。私は建物の外観とは室内のつくり方の結果の表れだと考えています。室内は暮らしの様々な要素が複雑に絡み合いながらつくられています。窓ひとつ設けるのにも方位や周辺の環境などを色々と考慮して、配置する場所と大きさを決めています。そのような一つひとつに意味のある行為の結果が外観に表れているのですが、内部の要求をそのまま素直にあらわしてしまうと乱れた印象になったり、ぶっきらぼうになってしまったり、うるさく感じることがあります。そのため、室内を考えている時も常に外部の様子を想像しながら、ある程度、整って見えるように気を配りながら設計をしています。

冒頭に触れたようにリノベーションの場合は、建物の外観や共用エントランスではなく、自分の家の玄関扉を開けた瞬間の第一印象をどのようにつくり出すかを一生懸命考えています。当たり前のことですが、リノベーション後の住まいが良いということが大前提です。その上で玄関扉を開けた時の第一印象が良かったら嬉しいですよね。私はそのようなリノベーション空間をつくりたいと思って設計をしています。

ここからはリノベーションの事例をご紹介していきます。

事例:シキリの形

「第一印象をつくる」ということを考えた原点のような事例です。このリノベーションの設計を通して、この後に手掛けた幾つかの設計の考え方につながっていきました。

玄関扉を開けると上の写真のような光景が目に入ってきます。玄関の土間が突き当りの壁まで一直線に伸びていき、視線を奥に導きます。左手は木の扉によって塞がれていてどのようになっているのか分かりませんが、奥の方には光が差しているので窓があるのかなと想像が膨らみます。見えないということが空間を無限に広く感じさせる心理的な効果があることに気づかされます。この事例以降、視覚効果や心理的な効果を利用して様々な事例に応用しています。

引き続き、リノベーションの事例です。

事例:ウチソトの間合

事例:光の居処

事例:囲みの層

事例:小平の改修住居

事例:鎌倉の改修住居

事例:品朴の間

どの事例も玄関扉を開けると広がっている光景です。いかがでしょうか。こうしてこれまでの事例を続けて見てみると常に第一印象を良くすることを考えているのが自分でも分かります。これは前回の第5回でお話した設計の方法に関係しているのだと思います。

ここまで第一印象について実際の事例でご紹介してきました。戸建て住宅とリノベーションの設計では具体的な手法に違いがありますが、その元にある考え方は同じです。

戸建て住宅の場合、住まいをつくる上で比重が大きいのは室内空間のつくり方だと思います。温熱環境の面で快適であること、居心地が良いこと、使い勝手が良いこと、デザインが良いことなどなど。人によって考え方が違いますし、重視する点も違うと思います。私は室内空間を考えながら、同時に外観のことも気にしています。室内空間も外観も、全てがバランス良く決まるポイントを探りながら設計をしています。リノベーションであっても玄関扉を開けた印象だけが良くては本末転倒です。室内空間がしっかりとつくられた上で印象が良くなければ意味がありません。室内空間だけがよければ良いという訳ではありませんし、外観が良ければいいなどとは思いません。どちらもバランスがとても大切だと思っています。このバランスのとれた住まいができることが、クライアント個人の喜びを超えて、周りや、社会に貢献することにもつながるのではないかと思っています。

今回取り上げた事例は「第一印象の良い住まいのつくり方」のごくごく一部です。クライアントの数だけ住まいのバリエーションがありますし、その数だけ第一印象の良い住まいのつくり方があると思います。そのため、ある方にとってはしっくりくる場合でも、別の方にとってはそうではないこともあると思います。是非、ご自分にとっての「第一印象の良い住まいのつくり方」を想像してみて頂き、ご自身にとっての「丁度いい」方法を見つけ出して頂ければ幸いです。