【連載】「丁度いい暮らしと住まいのつくり方」5

連載『丁度いい暮らしと住まいのつくり方』
第5回「丁度いい設計の方法 | 1 」

これから家づくりをする方や家づくりを考え始めようとしている方に向けて、ブログの中で不定期(月に1回程度)の連載をはじめました。個別のテーマはその都度変わりますが、連載のタイトルは『丁度いい暮らしと住まいのつくり方』として、これまでの設計事例の中からテーマに合わせて新築、リノベーションに関わらず事例をご紹介しながら、「丁度いい」とはどのようなことなのかを探っていきたいと思います。丁度いい暮らしを生み出すための設計の工夫や考えたこと、建て主の要望にどのように応えてきたのか、その他、個人的な想いなども書いていきたいと思っています。是非お付き合いください。

この連載も第5回目になりました。いつもは前置きで書いたように事例を中心に住まいの部分や場所にフォーカスしてお話をしていますが、今回は少し視点を変えて、私自身の設計の方法についてお話したいと思います。「丁度いい設計の方法」です。

私は設計者としてクライアントや建て主の要望に耳を傾け、お話を良く聞くタイプだと思います。クライアントとの打合せを通した会話の中には発見的なことがありますし、設計の手掛りとなるヒントが散りばめられていますので、むしろたくさんの会話をしたいと思っています。一方でクライアントの要望や条件とは関係なく(影響なく)、私なりに建築をつくる上で気に掛けていることが幾つかあります。こだわりと言うと少々大げさですが、癖もしくは譲れないポイントのようなものです。幾つかあるうちから、今回は具体的な設計をする中で、特に意識していることについて自分を振り返りながら書いてみます。

皆さんは、どのように設計がはじまるのか、どんな事柄から具体的な設計がスタートするのかということに興味や関心はありますか?建築を専門としている方はとても気になることだと思いますが、一般にはあまり気にされないことかもしれません。ある時、突然イメージが舞い降りてきて…ということは全くありません。実際は様々な与条件をひとつひとつ整理していくことで何となくこんなことではないかというおぼろげなイメージがつくられていきます。そのイメージ(カタチの原型)を色々な側面から見直していくことでひとつのカタチにまとまっていきます。

では、具体的にはどのように設計を進めているのかをみてみましょう。

ある土地に新築で住宅を建てることが決まり、いよいよ設計がはじまるとします。土地探しをお手伝いする場合には事前に、土地が予め決まっている場合にはその都度、行政などに調査に出向き、ヒアリングをして建築に関する法令や規則、規制を調べます。同時にクライアントから家づくりや新しい暮らしについてお話をお聞きします。土地(敷地)には何度か行って、太陽の動きによる陽のあたり方を確認したり、天候による雰囲気の違いを感じたり、周りの建物の状況を把握したり、視線の抜ける方向や遠くに見える景色を想定します。その他、周辺を歩き廻ることで街の雰囲気を体感することも大切にしています。このような、その土地固有の情報と建築法規、クライアントの要望や予算などを頭に入れて同時に考えはじめます。最初は自分の頭の中がグチャグチャになるので気持ちが悪いですが、そのままの状態を保ちながら実際の土地(敷地)の、どのあたりにどれくらいの大きさ(広さ)の建物が建つのが相応しいのかを考えていきます。この時には、先に触れた様々な情報を引き出しながら照らし合わせるように、全ての要素が合致するポイントを探っていきます。(実際には簡単にはあたりがつかずに何日も費やすこともありますが)このようにしておおよその建物の配置(土地の中で建物が建つ位置)と大きさが決まっていきます(この時点では仮に決めただけでまだ決定ではありません)。

建物のおおよその配置が決まると、外部環境と内部の関係を気にしながら建物の構成を考えていきます。平屋なのか、2階建てなのか、3階建てなのかによって違いはありますが、それぞれの階のどの辺りにどんな部屋や場所があると良いのか、部屋と部屋の関係や繋がり、外部と内部の関係はどのようにするのが自然なのかを細かく考えていきます。この時にも頭の中にある様々な情報を引っ張り出してきて、この方位から陽が入りそうとか、この方角に視線が抜けそうなど色々と想像しながら、全ての要素がピタッとはまるポイントを探っていきます。例えるならパズルのピースを嵌めていくような作業ですが、パズルと大きく違うのは最終的な完成形が見えていないということです。パズルは見本の写真や絵が予め用意されているので、見本と同じようにピースを嵌めて完成させますが、建築の場合はピースはあるものの完成形は全く分からないので、ひとつひとつのピースを地道に嵌めては戻して嵌めては戻してを繰り返しながら探っていくことになります。もしこの時、どうしても上手くいかなかったり、しっくりこないことがあれば、その理由を考え、必要に応じて配置から考え直すこともあります。

私の場合、間取りのような平面的な要素を考えて行くのと同時平行で断面の情報も整理していきます。部屋の高さや上下階の繋がり、建物の高さ方向に関することも同じタイミングで考えながら整合性を図っていきます。大きな視点では建物全体の高さに関わるような屋根の形状や勾配など、細かな視点では、天井の中に隠れてしまう配管のルートや材料の大きさや厚みなども厳密な高さに関係してくるので同時に考えます。多くの事柄が関係しながらバランスを取り合っているので全体と詳細を同時に捉えていきます。

この検討段階では幾つものパターンが生み出されますが、それぞれの良い点と悪い点を自分で評価しながら、悪い点をひとつひとつ潰すようにしてブラッシュアップしていきます。スタートからゴールまでは1本の道で繋がっているはずですが、途中には何本も枝分かれする道が存在しています。枝分かれした道の先にも更に何本もの道が伸びているので、ゴールは無数に存在するのだと思います。その中から自分なりの正解を見つけ出してゴールに辿り着くまで、進んだ道を引き返して違う道に進んだり、また戻ったりを繰り返します。すんなりとゴールに辿り着ければ良いのですが、経験を重ねてもスタートからゴールまで迷わず辿り着くことはないのではないかと思います。

ここまで、土地(敷地)に新築で住宅を建てることを前提にお話してきましたが、これがリノベーションであっても同じです。マンションや団地の一住戸をリノベーションする場合には配置自体を検討することはありませんが(物理的に出来ませんが)、既存の状態を観察して、壊すことができないことや変更ができない制約を敷地条件や環境のように「予めあるもの」として捉えて、その中で何が出来るか、どのようなことが相応しいかを探っていきます。そういう意味では大きな違いはないと思いながら設計をしています。

設計をする中で特に意識していることは、平面と断面を同時に考えながら、更に具体的な場面を立体のイメージとして想像するということです。設計をはじめた初期の頃はあまり意識をしていませんでした。ある時、いつもと同じように設計していると、生活のシーンがビジュアル化されてパース画のように立体的かつ奥行きを持った絵として私の脳内に現れたのです。この時以前にも同じようなことはありましたが、この「脳内パース画」を意識的に行うようになってからは、設計の時のイメージと現実の空間のずれがほとんど無くなりました。空間の感じ方に大きく影響する奥行きや広がりの感覚、光の明暗や陰影の状態が早い段階からリアルにイメージできるのでとても良い方法だと感じています。このイメージを場面場面で想像してパラパラマンガのように繋ぎ合わせていくと、普段の生活がひと続きのストーリーのように見えてきます。また、そこに在る空間ではどのような風景や景色が見えているのかも想像することができるのでとても臨場感があります。この脳内のパース画(パラパラマンガ)で見える情景と平面・断面を何度も行ったり来たりしながらイメージを修正して精度を高めていきます。

このような経過を経て、初期のプランニングが完了すると、この後はしばらく寝かせておきます。数日経ってから客観的な眼と心で再度確認するようにしています。設計にのめり込んでいると、視野が狭くなり正しい判断ができないことがありますし、時間が経つことでより良いアイデアに変わることがあるので、少し熱を冷ましてから、改めて検討をします。

ここまでくると、クライアントに見ていただくための準備が整います。プレゼンテーションを経て、了解をいただくことが出来れば基本設計が完了して次のステップ(実施設計)に進みます。実施設計では、実施設計のこだわりポイントがありますが、それはまた別の機会にしたいと思います。

建築家との家づくりはどうして時間が掛かるのか?
一般的にも良く聞かれる質問です。

当事者からすると、無駄に時間を使っている訳ではないですし、わざと時間を掛けているということもありません。どんなことでも同じだと思いますが、時間を掛ける(時間が掛かる)ということはコストが掛かることとイコールです。そこは常に意識しています。

では、自己満足のためにやっているのでしょうか?そんなこともありません。数多くいる建築家や設計事務所の中から私を選んで設計を依頼してくださった、その想いに感謝をして、クライアントの期待に応えたいと思っています。住宅をつくるためにお金を出すのはクライアントです。その住宅に住むのもクライアントです。クライアントのための住宅ということをしっかりと意識して間違えないようにしたいと思っています。

先に書いたように、自分でも気が遠くなるようなことを繰り返しながらスタートから繋がっているはずのゴールを探しています。時には、本当にこのプランニングで良いのかと自問自答をしながら、幾つものアイデアを作っては壊し、また作るということをしています。設計はこのような感じで進んでいきますのでどうしても時間が掛かってしまいます。それでも、住まいが完成してクライアントが楽しそうに暮らしている姿が私の脳内には見えているので、それを実現するために設計を続けています。

ここまで設計の方法を書いてきましたが、一般的な方法もありますし、私独自の手法もあると思います。設計したものはクライアントと共有して、クライアントの同意を得てはじめて実現します。考えたことを実現するにはクライアントの理解や共感を得ることがとても大切です。理解を得るためには、様々な側面から検討をして納得してもらえる提案でなければならず、共感を得られることが必要だと思います。その結果として豊かな暮らしにつながる建築空間が生み出されると考えています。

今回は、いつもとは違った視点と内容で書きました。ひとりの建築家がどんなことを考えて設計をしているのか、少しでもご理解いただけると嬉しく思います。また、ひとりでも多くの方に建築家と一緒に注文住宅を建てることを楽しんで頂きたいと願っています。

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