【連載】「丁度いい暮らしと住まいのつくり方」4

連載『丁度いい暮らしと住まいのつくり方』
第4回「キッチンのつくり方アレコレ」

これから家づくりをする方や家づくりを考え始めようとしている方に向けて、ブログの中で不定期(月に1回程度)の連載をはじめました。個別のテーマはその都度変わりますが、連載のタイトルは『丁度いい暮らしと住まいのつくり方』として、これまでの設計事例の中からテーマに合わせて新築、リノベーションに関わらず事例をご紹介しながら、「丁度いい」とはどのようなことなのかを探っていきたいと思います。丁度いい暮らしを生み出すための設計の工夫や考えたこと、建て主の要望にどのように応えてきたのか、その他、個人的な想いなども書いていきたいと思っています。是非お付き合いください。

今回は連載の第4回目です。4回目は「キッチンのつくり方」をテーマにキッチンとその周辺について探りたいと思います。

キッチンには色々な配置の仕方と形態があります。分かりやすい例はアイランドキッチンだと思います。壁から離れて単独に存在する形態のキッチンカウンターです。アイランドキッチンに憧れていると言う方も多いかもしれません。キッチンの形態にはそれぞれ特徴があり、どんな場所にもアイランドキッチンが適している訳ではありません。私はキッチンについて考える時に、キッチン単独で考えることはしないようにしています。キッチンだけがその場に存在することはなく、必ず空間の中に配置されています。どのような空間でもその空間の中で最も適したキッチンの形態があるはずです。空間の大きさや広さ、家族の生活習慣や振る舞いなどにも依る所が大きいと思います。使い勝手の良いキッチンはその空間に違和感なく溶け込んでいることが多く、キッチンの配置や形態には様々なことが関係し合うので十分に考慮する必要があると思っています。それでは具体的にどんなキッチンがあるのか見ていきましょう。

最初は壁に向かって配置したキッチンの事例です。

事例:国分寺の小さな住居

写真は戸建て住宅の2階にある一列型の壁付けキッチンです。約16.5帖のリビング・ダイニングと一体の空間に配置しています。広さを数字でみるとコンパクトに感じるかもしれません。広さに制限がある場合にはキッチンカウンターや冷蔵庫、家電など大きなものやかさばるものは壁際に寄せて設置することで空間が広く感じられます。この住宅でも壁際にキッチンカウンターを配置して、その横に冷蔵庫のスペース、更に横に家電収納と食品のストックをしておく収納棚を設えました。壁付けキッチンの良いところは省スペースであることに加えて動作の距離が短く済むことです。基本的な移動は横移動ですし、背面にダイニングテーブルを配置すれば、振り返るだけの動作で済んでしまいます。キッチンカウンターの長さは2.7mです。私が設計するキッチンの中では標準的な大きさです。キッチンの使い勝手はひとそれぞれですが特別なご希望がない場合やまずは提案して欲しいと言われた場合にはこれくらいの大きさにすることが多いです。ガスコンロとシンクのみのシンプルな造りですが、家具工事によるオリジナルの造作キッチンです。

事例:囲みの層

次も同様に一列型の壁付けキッチンの事例です。壁付けタイプの欠点はキッチンがダイニングやリビングから丸見えになってしまうことです。片づけが苦にならない方にはお薦めできますし、むしろお気に入りの食器を飾りたい方はこの方法が良いと思います。この住宅では吊戸棚は設けず、オープンの棚板に食器などが並びます。冷蔵庫の左横のグレーの部分は開き扉になっていて、食品のストックをいれておく食品庫になっています。その下のスペースにはゴミ箱が納まります。このキッチンはサンワカンパニーのグリッド45というシリーズをクライアントのご希望で採用しました。長さが2.4mあるステンレスキッチンです。このステンレスとの相性を考慮して壁の色やタイル、食品庫の扉の色をグレーにしました。天井面に現したコンクリートの梁とのバランスも意識しています。色味を合わせることで壁面全体が統一感のある印象にまとまっているのを感じていただけると思います。キッチン単体ではなく、その周辺を一緒に考えることが大切です。

事例:板橋の二世帯住居


二世帯住宅の子世帯のキッチンです。やはり壁付けの一列型のキッチンです。家具工事による造作キッチンで2.7mあります。設備機器はご希望に合わせて設置していますが、ここでは食洗機がついています。キッチンと隣接する位置(左側の空間)に2帖強のパントリーを設えました。冷蔵庫や食器棚を収納する他、小さな窓と小さなカウンターをつくり付けて家事スペースにしました。僅かな空間ですが、奥さんが籠れるこういう場所があると家事がグッと楽になると思います。

事例:戸塚の住居

続いては独立タイプのキッチンです。ダイニングやリビングに隣接していますが空間としては別という事例をご紹介します。形態は今までの壁付け一列型と近いですが空間の繋がり方が変わるので振る舞いは違ってきます。戸建て住宅の2階に配置したキッチンです。奥さんのご希望でダイニングの隣に独立したキッチンを設えました。キッチンは一列型の壁付けキッチン(2.7m)、背面には3枚の引戸のある食器棚を設え、同一空間にパントリーもあります。コンロはご希望でIHを採用しました。ダイニングとの間には引戸を設けているので、扉を閉めることで完全な個室にもなります。例えば、急な来客があった時でも扉を閉めてしまえばキッチンが見えることはありません。

事例:品朴の間

同じく独立タイプのキッチンです。リノベーションの住まいの事例ですが、リノベーションの場合は間取りの制約によりキッチンの配置が決まってしまうことが多くあります。この住宅でもリノベーション前と同じ場所にキッチンを配置していますが、配置を変えなくても使い勝手や印象をより良くすることは出来ます。ここでは使い勝手を考慮してキッチンの背面にカウンター式の収納を設け、並んだ位置に以前から所有していた箪笥の置き場所を設けました。キッチンは家具工事による造作、背面カウンターは大工工事による造作です。設備機器はガスコンロとガスオーブンを設置しています。

事例:小平の改修住居

同じくマンションリノベーションの事例です。この住宅も独立した空間に一列型の壁付けキッチンと背面カウンターを組み合わせました。背面カウンターの上部には棚を設けて、収納量を確保しています。カウンターの一部は下向きに可動することで、バルコニーに面したガラス扉から直接外に出ることも出来ます。またダイニングに隣接するように配置したキッチンを通り抜けることで寝室にダイレクトに入ることができます。リノベーションの場合は既存の状況により制約を受けることがありますが、その制約を逆手にとることで新築にはない使い勝手を生み出すことができます。


事例:光の居処

こちらもマンションリノベーションの事例です。ダイニングの横に半分閉じた(少しだけ開いた)設えのキッチンをつくりました。キッチンはコの字型とすることでまるでコックピットのようなつくりになっています。中心に立つとどこへも半歩程度の移動で手が届き、体を回転することで作業が完結するキッチンとしました。キッチンとダイニングを隔てるカウンターは多機能なつくりとなっており、上も下も効率的に余すところなく収納として使用しています。キッチン側はオープンな収納棚になっていて、下部にはゴミ箱のスペースもあります。ダイニング側は開き扉で隠していますが、扉の中には様々なものが収納できるように、収納するものに合わせて奥行を変えた収納スペースになっています。この多機能なカウンターがあることでダイニングからキッチンが丸見えになることがありません。キッチンで作業をする様子だけがチラッと見えるようなつくりなので、料理中に手元が散らかっていても安心です。このように色々な試みが凝縮したキッチンですが、これもリノベーションならではの制約とコンパクトな空間だったことから生まれています。


事例:小平の住宅

続いてアイランドキッチンや二列型のキッチンの事例です。家具工事の造作による二列型のキッチンです。シンクのあるカウンターはダイニング側に向かって配置しているので、食器を洗う時にも家族の様子を見ることができ、常に一体感が感じられます。キッチンカウンターが二列になることで物理的に長く広くなるので作業に使えるスペースが増えます。広さが必要な調理をする時やお子さんと一緒に料理をする際にもストレスがありません。この住宅ではシンク側とコンロ側のカウンターの高さを意図的に5cmほど変えています。造作キッチンの場合、高さや長さは自由につくることができるので、細かな対応が可能になります。さらにキッチンの横には約2.5帖のパントリーを設けています。食器や食品のストックの他、ワインセラーや家電が設置できるように電源を確保しています。


事例:鶴川の連窓住宅


同じく二列型のキッチンの事例です。コンロのある側は壁付けで約3.1m、シンクのあるカウンターは約1.5m。どちらのカウンターも大工工事による造作です。大工さんに造作してもらう場合は家具工事ほどの施工精度が出にくいので、大工さんがつくりやすい材料の選定とデザインが不可欠です。ここではラワン合板とラワンランバーを使用しオープンな棚にすることで収納量を確保できるキッチンとしました。壁付けカウンターの上部にもオープンな収納をつくり付け、一部にはエアコンを設置して幕板で目隠ししています。

事例:小川町の家


次は(二列型)アイランドキッチンの事例です。コンロのあるカウンターは壁付けで約3.4m、シンクのあるカウンターは独立したアイランドタイプで1.8mあります。キッチンメーカーによる造作で、オーブンと食洗機が入っています。これだけ大きいと存在感がありますが、ダイニングキッチンの広さから考えると違和感のない大きさです。キッチンが配置される空間の大きさに合ったキッチンカウンターとすることが大切です。正面のアーチの空間(上の写真)は約3帖のパントリーです。パントリーの中には十分な収納量を確保したオープンな棚とパソコン作業などができるカウンターを設えました。勝手口もついていて、玄関横のテラスから直接外に出られます。

ここまで色々なキッチンの事例を見てきましたが、キッチンのつくり方には家具工事による造作や大工工事による造作、システムキッチンやメーカーによる既製品などの種類があります。どれが良いかはクライアントの好みによるところがありますが、私にゆだねていただける場合には、全体のコストを考慮しながら最適な方法を提案しています。
一般的には造作キッチンは高いと思われていますし、クライアントにも毎回聞かれることですが、必ずしも造作が高いということはないと思います。正しいデザインで正しくつくれば極端に高くなることはないと考えています。そのため、私が設計する場合は(クライアントのご希望がなければ)造作キッチンをおすすめしています。
造作する良さは幾つもあります。大きさや高さはクライアントの身長や動作に合わせることができますし、引き出しなのか開き扉なのか引戸なのかオープンな棚なのかも自由に決められます。設備機器はもちろん好きなものを入れられますし、面材も自由に選べます。キッチンは機能性が大切ですが空間の中での存在感が大きいので、その見え方も大切にしたいと考えています。面材が選べると建物全体の雰囲気に合わせたり、イメージを統一することができるのでその空間の中に違和感なく溶け込むキッチンをつくることができると思います。

キッチンのあり方はひとによってそれぞれの考えがあり、その考えが大きく反映されると感じています。使い勝手や機能性、生活上の習慣や動作寸法などの他、クライアントの理想とする想いがあり、生活の中での使用頻度が高い場所でもあるので自分にあったキッチンのあり方やその周辺について考えることは家づくりを考える上でも重要です。
キッチンは暮らしと住まいが一体となった場所だと思いますので丁度いいキッチンのあり方を考えることは丁度いい暮らしと住まいを考えるきっかけになるのではないかと思います。一方でキッチンだけでは暮らしや住まいは成り立たないので、キッチンから考えはじめてその周辺や住まい全体に考えを巡らせていただけると良いと思います。

今回取り上げた事例はキッチンのあり方のごく一部です。クライアントの数だけキッチンのバリエーションがあると言っても良いと思います。そのため、ある方にとっては丁度いい場合でも、別の方にとってはそうではないことはあると思います。「丁度いい」は奥深く、人それぞれです。是非、皆さんにとっての「丁度いい」を想像してみてください。

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