【連載】「丁度いい暮らしのつくり方」2

『丁度いい暮らしのつくり方』第2回

これから家づくりをする方や家づくりを考え始めようとしている方に向けて、このブログの中で不定期(月に1回程度)の連載をはじめました。
個別のテーマはその都度変わりますが、連載のタイトルは『丁度いい暮らしのつくり方』として、これまでの設計事例の中からテーマに合わせて新築、リノベーションに関わらず事例をご紹介しながら、「丁度いい」とはどのようなことなのかを探っていきたいと思います。
丁度いい暮らしを生み出すための設計の工夫や考えたこと、建て主の要望にどのように応えてきたのか、その他、個人的な想いなども書いていきたいと思っています。是非お付き合いください。

今回は連載の第2回目です。前回の反響が大きく、多くの方にご覧頂けたようで嬉しいです。ありがとうございます。
2回目は「吹抜け」をテーマに「丁度いい吹抜け」を探りたいと思います。

吹抜けは階が複数になる際に上下をつなぐなどの目的で生まれる空間のことなので主に戸建て住宅に設けられることが多いです。マンションでもメゾネットの場合で条件が揃えば吹抜けを設けることができると思いますが私はまだ経験がなく、ここでは戸建て住宅の事例をご紹介していきます。

最初はこちらの事例です。

事例:座間の家


写真はダイニングからリビングスペースを見ています。リビングの上空を吹抜けとした事例です。
リビング(1階部分)は南と北に性格の違う庭を設けています。その庭に対して性格の違う開口部(窓)を設けました。この開口部を通してそれぞれの庭をつなぐように視線が抜けます。また窓は全開放できるので、開け放つと風が抜けていきます(網戸は設けてあります)。写真正面は西面ですが1階部分を壁とすることで隣家からの視線を遮り、同時にテレビを置いても背面が気にならないプレーンな壁面を用意しました。一方で吹抜け上空の2階部分には窓を設けて光を取り込む工夫をしています。西に向いた窓なので西日になりますが直接的なまぶしさはなく、明るさは十分に確保できるように窓の配置を工夫しています。吹抜けに絡め、方位を考慮して開口部を配置することで、風が通り抜け光が巡る空間になります。また、時間や季節を意識するきっかけにもなると考えています。

事例:戸塚の住居


1階に設けた家族の図書室の写真です。
この住宅のリビングは2階にありますが、リビングとは別に家族が集まるスペースを1階に設け、図書室と名付けています。壁面には造り付けの本棚を設え、実際に図書室のように使うことができます。その他、パソコン作業をしたり、お子さんが勉強をしたり、来客時の応接のスペースにもなる場所です。この図書室の上空を吹抜けとして2階のリビングやダイニングと立体的につながるようにしました。また、階段室を兼ねることで1階から2階へ、2階から1階へ移動する際には常に視線が移り変わり、上下方向の変化が感じられるつくりになっています。その他、吹抜けの高い位置(2階の高さ)に設けた北側の窓により安定的な明るさを確保でき、外からの視線を気にすることなく集中できる場となりました。吹抜けにより、上下階のつながりが生まれることで姿が見えなくても家族それぞれがお互いの気配を感じることができるので安心感もあります。


事例:国分寺の小さな住居

この住宅の吹抜けは玄関ホールに付属しています。
旗竿敷地の南側に道路から続く、所謂「竿」の部分があり、そのアプローチの延長に玄関を設けました。敷地も住宅自体もコンパクトなので、窮屈さを感じない大らかな家にしようという思いから吹抜けを設けましたが、その吹抜けの位置が玄関ホールにあるのにはいくつかの理由があります。細い路地状のアプローチを通ることで少し体が縮こまっているところを、家の中に入ると上空に広がる大空間が表れ、パッと開放されるような感覚を味わうことができます。緊張と緩和のリズムを作るイメージです。またこの吹抜けに接するように階段を設けていますので、上下階への移動がよりダイナミックに感じられる設えとしています。周囲を隣家に囲まれている状況ですが南側の2階部分から光が入ることが期待できたので吹抜けをつくり上空から光を取り込むことにしました。その際、敢えて2階部分のみを北側にセットバック(後退)させて隣家から引きをとることで距離が生まれ、より多くの光が南面から入る工夫をしました。このことは同時に2階からこの大きな窓を見たときにも隣家と距離があることでお隣の視線を軽減する効果があります。

この住宅では2階の吹抜けに面する場所にご主人の趣味のDJカウンターを設けたり、一部机になる場所も設けました。目の前に壁がなく、抜けていることで開放感を感じられる居心地の良さを生み出しました。

同じように吹抜けに面してカウンターを設けた事例があります。


1階のリビングの上空を吹抜けにして、吹抜けに面した場所にカウンターを設けました。この場所はお子さんが勉強をしたり、背後にあるテラスから洗濯物を取り入れて畳んだりする多目的な場所です。やはり開放感があり、上下階がつながることで距離が離れていてもお互いの存在を感じるられることが特徴のひとつです。

事例:練馬の改修住居

玄関を抜けると写真のような屋根まで吹抜けた階段のあるホールに出ます。この住宅は1階に個室と水廻りを配置し、2階にダイニング・キッチンとリビングがあります。
今までの事例と同じように1階と2階、2階ダイニング・キッチンと2階リビングがこの吹抜けを通して繋がります。繋がりながらも同時に吹抜けとしての間(ま)があることで、ほど良い距離を生み出してくれます。



室内環境的には1階、2階それぞれの南面に窓を設けて太陽の光を取り込んでいます。屋根面にも電動で開閉するトップライト(天窓)を設けることで光を取り入れると共に空気が流れる仕掛けを施しています。この吹抜けを通して視線が縦、横、斜めに交錯することで空間が層のように連なり、奥行を感じる効果が生まれます。

事例:小平の住宅

この住宅には2ヶ所の吹抜けを設けました。玄関ホールと子供室の2ヶ所です。
玄関ホールに吹抜けを設けた理由は玄関扉を開けて中に入ると近い距離に2階へ上がる階段のササラ(側板)が目に入ることが理由のひとつです。

奥行きを深くすることが難しかったので目線の近い位置に階段のササラが存在しますが、上空を吹抜けとすることでその圧迫感を軽減しようと考えました。また吹抜けにすることで上空があくので、2階部分に大きな窓を設けました。1階から見上げると周囲の視線は気にならず、空が見えます。時間によって移り変わる太陽の動きに呼応して光と影の状態が常に変化します。このことが空間に奥行きを生み出す一つの役目を果たしていると思います。

実はこういう感覚的なことが家づくりにはとても大切だと思っているのですが、クライアントにご理解いただくのは思いのほか苦労することがあります。この住宅のクライアントは簡単にご理解くださったので、説明に苦労することはなかったのですが、人によっては理解しにくいことなのかもしれません。

もう1ヶ所の吹抜けは子供室に設けました。

子供室に吹抜けを設けた理由もいくつかあります。ひとつは上下階の繋がりを生むためです。子供室の上(2階)はダイニングなどのパブリックな場所です。大人が上にいて、お子さんが下にいる時でも姿は直接見えませんが気配が分かり、音が聞こえやすいからです。もうひとつの理由は窓の外に広がる緑地の緑と広い空を眺める大きな窓を設けようと思ったことです。通常の窓はどんなに大きくても物理的に天井面までの高さまでになります。この住宅では窓際に設けた小さな吹抜けにより天井面の制約がなくなり、自由な高さに窓を配置することが出来ました。

この吹抜けと窓の考え方は個人的にとても気に入っています。この住宅の大きなテーマのひとつが隣地にある緑地の緑を感じる家にすることでした。緑を感じるのと同時に大きな空も魅力です。この状況を積極的に取り込むためにどんなことをすると一番効果があるのかを考えた結果、吹抜けを設けることに行きつきました。実際に吹抜けがなかったことを想像すると今の方が視界も広く開放的で良かったと思います。このアイディアをクライアントに提案した時に、とても喜んで頂けたのですが、一方で違う懸念事項も出てきました。1階と2階が繋がっていて気配や音が聞こえることがメリットではあるのですが、お子さんが夜、大人よりも早く寝ようとした時に音が聞こえるので気になって眠れないとか、明かりが漏れてまぶしくて眠れないということが起こることです。このようなメリットとデメリットは相反することが多いので悩ましいです。この時は吹抜けが小さかったので可動式の蓋を設けることで解決しました。


普段、この蓋は壁の一部に収納されているのであまり意識することはありません。蓋に設けた手掛けを引くと90度回転して窓台にのっかる仕掛けになっています。ちょっとしたことですが、この蓋により懸念事項はなくなり、この効果的な吹抜けを実現することができました。

私はそれぞれの場所が単に機能的であれば良いとは思っていません。機能が疎かになるのは良いことではないので、機能を十分に満たした上でそれぞれの住まいにとってのベストな方法を毎回模索しています。そこに住む方は毎回違う方なので当たり前だと思いますが、幾つかのパターンから良さそうなものを当てはめるようなことはしません。吹抜けひとつとってもこのようなにアレコレと考えを巡らせてつくっています。

こうして幾つかの事例をみてみると、吹抜けのつくり方にも色々な方法があるということがお分かりいただけると思います。色々なつくり方があるのは、基本的には私のクライアントに対する想いや個人的な考え方が影響していると思います。共通しているのは「こういうものだ」とか「こうでなければいけない」という偏った常識にとらわれず、それぞれのクライアントに合ったつくり方や暮らし方があるので、そこを間違えないようにしたいということです。そして常に機能的で美しくありたいということです。

それにしてもほぼ全ての住宅に吹抜けを設けていました。吹抜けを設けなければいけないとは思っていないのですが、吹抜けを設けるのには理由があります。事例の中でご紹介したことを整理すると、光を取り込むためであったり光の状態を調整するため、視線のコントロールや上下移動の空間体験、気配や音が伝わることでの家族の一体感や開放感、空間の連続性や距離感の調整など様々です。そのどれもがクライアントの要望をもとに、クライアントのキャラクターや敷地の状況に合わせて吹抜けの在り方を考えて設けています。
また、事例の中では触れていませんが吹抜けは面積調整を兼ねていることもあります。建蔽率や容積率がそれぞれの地域で決められていますので、その制限に合わせて計画しています。建蔽率50%、容積率80%などという面積配分に偏りのある条件の時には吹抜けを設けることが有効に働くことがありますので合わせて付け加えておきます。

今回取り上げた事例は吹抜けのつくり方のごく一部です。意味のある吹抜けがあることでそれぞれの住まいが豊かになっていることを感じて頂ければ嬉しいです。豊かな住まいが丁度いい暮らしを生み出すきっかけになっているとも思います。一方で「丁度いい」は人それぞれだということも分かります。ある方にとっては丁度いい場合でも、別の方にとってはそうではないことはあると思っていますので丁度いいは奥が深いです。是非、皆さんにとっての「丁度いい」を想像してみてください。

連載の第1回ブログはこちらです。よろしければ合わせてご覧ください。