【連載】「丁度いい暮らしのつくり方」

『丁度いい暮らしのつくり方』第1回

これから家づくりをする方や家づくりを考え始めようとしている方に向けて、このブログの中で連載(月に1回程度の更新)をしようと考えています。

個別のテーマはその都度変わりますが、連載のタイトルは『丁度いい暮らしのつくり方』として、これまでの設計事例の中からテーマに合わせて新築、リノベーションにとらわれず事例をご紹介しながら、毎回「丁度いい」暮らしや住まいとはどのようなことなのかを探っていきたいと思います。

丁度いい暮らしを生み出すための設計の工夫や考えたこと、クライアントの要望にどのように応えてきたのか、その他、個人的な想いなども書いていきたいと思っていますので是非お付き合いください。

今回は第1回目として玄関をテーマに「丁度いい玄関のつくり方」を探りたいと思います。

私が子供の頃の記憶ですが、友人の家に遊びにいくと玄関がとても広くて立派なお宅がまだまだありました。私が育ったのは横浜市郊外の新興住宅地でしたが、近くには地主の方や農家さんも多く、大家族だったりもしたので大きく立派なお宅があったのだと思います。彼らの家にはその広さに比例するように広く立派な玄関がありました。「玄関は家の顔」ということばを聞くこともありますので特に玄関は立派だったのかもしれません。

一方で、現在の住まいの多くは単世帯で独立した家族が住む家がほとんどです。建替えや相続で親の土地を引き継がない限りはご自身で土地を購入して家を建てる(または土地と家を買う)ということになります。
私のところに相談に見えるクライアントの皆さんも予算配分をしながら土地を購入して限られた敷地や予算の中で住み心地の良い家をつくりたいという方がほとんどです。

私自身の感覚として、玄関が狭くて窮屈なのは嫌だなと思っています。逆に広すぎるのも持て余してしまうようでしっくりこないのです。

ここには「丁度いい」広さや大きさや設えが存在すると思います。

玄関には機能的に必要な動作寸法や広さがありますので、そこは可能な限り確保しつつ、それ以外の何かがあるとより良い場所になり、玄関だけで終わらない魅力的な空間になると考えています。今までの事例を振りかえってみても玄関のつくり方に特徴のある住まいが多いことに気づきます。

最初はマンション(団地)リノベーションの事例をご紹介します。

事例:シキリの形

玄関扉を開けたところです。玄関の幅は変えられなかったので視線を奥まで導くような工夫をしました。視線を奥まで導くために玄関の土間を伸ばし部屋の突き当りまで延長しています。これにより自然と視線が奥に向かうような心理的な操作をしています。また、写真左手の大きな扉が左手奥にある部屋を隠しているので光だけが土間部分にもれてくることで奥の部屋がどうなっているのかを想像させるような設え方としました。見えない所をつくることで頭の中に無限に広がる空間をつくり、一方で見える部分を極端に引き延ばすことで物理的な広さの「感覚」をつくり出しています。

事例:ウチソトの間合

玄関から奥を見たところです。この住まいはロの字型の巨大なマンションの角に位置する部屋のため共用廊下から主の部屋に至るまでに廊下状の場所を通る構造になっています。一見すると不便に感じるこの特徴を活かして部屋の中に路地のようなアプローチ空間を設けました。幅が狭いことも逆手にとって奥までを長く感じさせるように壁面に照明の明かりを集め、リズムを生み出しました。写真の場所は室内ですがあえて土足で移動する場とするために大谷石を敷いた土間としています。

この2つの事例は玄関に入った時の印象をどのようにつくり出すか、移動している時の人の感覚をどうコントロールするかに注目して考えています。

次の事例では玄関に入った時に先に見える光景を意識しつつ、別の用途を付加しています。

事例:光の居処

玄関に入ると写真のように先の明るい光が印象的に見えます。奥行が感じられ、奥に導かれるようです。玄関の横には段差なくつづく土間を広く取りました。

この場所は奥さまの仕事場でもあります。玄関が広いのか、仕事場が玄関まではみ出しているのか、厳密にそれぞれの場を分けるのではなく、境界を曖昧にすることで何となく自然なつながりが生まれるようにしました。これは仕事の来客があった際にも土足のまま打合せが出来たり、仕事以外の時間は玄関の要素がはみ出してきてもいいようなつくり方をしたためです。

面積が限られる場合には、幾つかの機能や用途を兼ねることでお互いが無理なく成立するようなことを考えます。

ここからは戸建住宅の事例です。戸建住宅の場合は玄関に至るまでも建築的にコントロールすることが可能になります。

事例:国分寺の小さな住居

旗竿敷地に建築した小さな住宅の事例です。竿の部分を長いアプローチと見立てることで玄関までの距離を利用して気持ちを整える場にしています。ただの通路になるか、意図的なアプローチになるかは、その設え方で変わってくると思います。玄関部分にあたる建物の一部がアプローチに顔をだし、引戸をあけると裏庭まで視線が抜けていきます。

この工夫により外部である通路が建物と密接な関係を持つアプローチに変わっています。写真では分かりにくいのですが実際にこの場に立つと設計の意図を感じていただけると思います。クライアントはこのアプローチを通るたびに、この体験を繰り返してくれていると思います。
話しが玄関から逸れてしまいました。

引戸をあけて玄関の中に入るとそこは上部に吹抜けのある広い土間空間になっています。これは、画家である奥さまが床にキャンバスを置いて絵を描くための設えですが、同時に開放感のある気持ちの良い玄関ホールを兼ねています。細長いアプローチを抜けて中に入ると上空にも開けた開放的でダイナミックな空間があらわれるという仕掛けです。

私は設計をする時に常に人が動いていく視線を追いかけ、どのような気持ちや感覚になるのかを想像しています。専門的な言い方になりますがシークエンスをつくり出すことを考えています。これは私が感銘を受けた実際の建築体験が大きく作用していると思いますが、その話しは長くなるのでまた別の機会にしたいと思います。

事例:小平の住宅

この住まいも旗竿敷地に建築した戸建住宅の事例です。

玄関扉を開けると2階へあがる階段が見えます。中に入り左を向くと子供室を通して裏手にある緑地の緑が広がっている様子が飛び込んできます。

上に目線を移動すると上空にある高窓から光が落ちてきます。広いスペースを確保することは他の部屋との兼ね合いで難しかったのですが、逆に他の部屋や場所を取り込むことで玄関が広く感じられるつくり方を試みました。

この考えに至るまでには、扉の取りつく壁面をどこにするか、どの方向に入ってくるのが良いのか、入った時に階段がいきなり見えることでどう感じるのかなど、幾つものシミュレーションと想像を繰り返しました。

私はそれぞれの場所が単に機能的であれば良いとは思っていません。機能が疎かになるのは良いことではないので、機能を十分に満たした上でそれぞれの住まいにとってのベストな方法を毎回模索しています。そこに住む方は毎回違うので当たり前だと思いますが、幾つかのパターンから良さそうなものを当てはめるようなことはしません。玄関ひとつとってもこのようなにアレコレと考えを巡らせてつくっていきますので、どうしても時間が掛かってしまいます。建築家との家づくりに時間が掛かるひとつの側面だと思います。

こうして幾つかの事例をみてみると、玄関のつくり方にも色々な方法があるということがお分かりいただけると思います。自分でも色々なつくり方をしていると改めて気づかされます。色々なつくり方があるのは、基本的には私のクライアントに対する想いや個人的な考え方が影響していると思います。共通しているのは「こういうものだ」とか「こうでなければいけない」という偏った常識にとらわれず、それぞれのクライアントに合ったつくり方や暮らし方があるので、そこを間違えないようにしたいということです。そして常に機能的で美しくありたいということです。

今回取り上げた事例は玄関のつくり方のごく一部です。これが全てではありません。また、「丁度いい」は人それぞれだということも分かります。ある方にとっては丁度いい場合でも、別の方にとってはそうではないことはあると思っていますので丁度いいは奥が深いです。是非、皆さんにとっての「丁度いい」を想像してみてください。

連載の第2回ブログはこちらです。よろしければ合わせてご覧ください。